論文詳細07

抗病原体分子をバランスよく配置して、免疫反応を効率化!
―GBP依存的な抗病原体免疫反応に重要な制御因子Gate-16の同定―
Essential role for GABARAP autophagy proteins in interferon-inducible GTPase-mediated host defense

Nature Immunology Available online 12 June 2017 論文
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)ウェブサイト内研究成果ページ サイト

概要

 ゲノム編集法を用いて、Gate-16(ゲート16)と呼ばれる宿主分子が、病原体含有小胞を形成する寄生虫「トキソプラズマ」や細菌「サルモネラ」のインターフェロンによる効率的な排除に必須であることを発見しました。

背景

 トキソプラズマやサルモネラは我々宿主の体内に入りマクロファージなどの免疫細胞の中に「病原体含有小胞」で総称される膜状の特殊な構造体(特に、トキソプラズマでは「寄生胞」と呼ばれ、サルモネラは「サルモネラ含有小胞」と呼ばれています)を作って感染して増殖します。トキソプラズマの細胞内感染に対して宿主はインターフェロンが誘導する様々なタンパク質群が病原体含有小胞に蓄積した上で、病原体含有小胞を破壊してトキソプラズマやサルモネラを細胞内で殺傷しています。しかし、インターフェロン誘導性タンパク質がどのようにして効率よくトキソプラズマやサルモネラの「病原体含有小胞」に蓄積しているのかについては良くわかっていませんでした。

研究の成果

 正常細胞ではトキソプラズマ原虫やサルモネラなど病原体含有小胞を形成する病原体に対し、インターフェロンによってGBPというタンパク質が誘導され、病原体含有小胞に蓄積し小胞を破壊します。私たちの研究グループはGate-16という分子を欠損すると、インターフェロンガンマ刺激をしてもGBPの病原体含有小胞への蓄積が著しく低下してしまい、病原体数が減少しないことを明らかにしました(図1A-D)。GBPは通常、インターフェロン刺激した未感染細胞では粒状で細胞質に均一に「遍在」しています。一方、Gate-16欠損細胞では、細胞質内の数箇所に凝集し「偏在」していることがわかりました(図2A)。さらに、Gate-16欠損細胞で偏在したGBPを解消すると、GBPのトキソプラズマ寄生胞への動員が部分的に回復しました(図2B)つまり、GBPがGate-16依存的に細胞質内に均一に「遍在」することが、抗病原体応答に重要であることがわかりました。さらに、マウスの実験においても、Gate-16欠損マウスはトキソプラズマに対して劇的に高い感受性を示し、原虫の数が野生型に比べ劇的に増加していました(図3A、B)。このことから、個体レベルでもGate-16が抗病原体応答に重要であることがわかりました。

 以上の結果から、Gate-16は抗トキソプラズマ・サルモネラ宿主免疫分子GBPを細胞質内であらかじめバラバラと(バランスよく)配置することによって、それらの病原体がどこから侵入してきてもGBPと遭遇するように用意し、抗病原体応答を効率的に引き起こしていると考えられます(図4)。

今後の期待

 本研究で、私たちはGate-16がインターフェロンガンマ依存的な抗病原体免疫反応を著しく効率アップすることを発見しました。今後Gate-16の活性を人為的に制御することで、トキソプラズマ症やサルモネラの食中毒の発病を食い止める新規の治療・予防戦略を提供できることが期待されます。 


図1 Gate-16欠損細胞では、インターフェロン ガンマ刺激によるトキソプラズマとサルモネラ菌の殺傷応答が低下している

(A) 各線維芽細胞にトキソプラズマを感染させ、インターフェロンガンマ刺激前と後の原虫数を相対値で示した。Gate-16欠損細胞だけが、他のATG8欠損細胞よりも原虫数が多いことがわかる。
(B、C) 野生型及びGate-16欠損線維芽細胞にトキソプラズマ(B)及びサルモネラ菌(C)を感染させ、GBPの蓄積率を検討した。どちらもGate-16欠損細胞でGBPの蓄積率が低下していた。
(D)未刺激(黒)またはインターフェロンガンマ刺激(白)した野生型及びGate-16欠損線維芽細胞にサルモネラ菌を感染させ、菌数を計測した。野生型ではインターフェロン刺激後に菌数が10分の1に減っているの対して、Gate-16欠損細胞では減っていなかった。


図2 Gate-16欠損細胞ではGBPが凝集体を形成し不均一に偏在するが、それを解消するとGBP依存的な免疫応答が回復する

(A) 野生型及びGate-16欠損線維芽細胞をインターフェロン ガンマで刺激し、GBP(赤)及びLC3(緑)で染色した。GBPは野生型では粒状にバランスよく細胞質内に配置されているのに対して、Gate-16欠損細胞では数箇所に凝集していた。
(B) Gate-16欠損細胞に、活性化型Arf1を過剰発現させるとGBP凝集体が解消し、GBPがトキソプラズマの病原体含有小胞に蓄積した。


図3 Gate-16欠損マウスはトキソプラズマ感染に劇的に弱い

(A) 野生型、Gate-16欠損及びインターフェロンガンマ受容体欠損マウスにトキソプラズマを腹腔感染し、マウスの生存率を経時的に測定した。野生型マウスは1匹も死ななかったのに対して、Gate-16欠損マウスとインターフェロンガンマ受容体欠損マウスは全数死亡し、そのタイミングも同じであった。
(B) ルシフェラーゼ発光するトキソプラズマを、野生型及びGate-16欠損マウスに感染させ、7日後に生体イメージング装置で測定した。Gate-16欠損マウスの腹腔内には野生型マウスに比べて著しく多い原虫が存在していた。


図4 Gate-16はGBPの細胞質内での均一な配置を促進することで、効率的な病原体排除反応を担っている

Gate-16がある野生型細胞では、GBPは細胞質内にバラバラに均一に「遍在」しており、トキソプラズマやサルモネラなどの病原体が感染しても、GBPが病原体含有小胞上に蓄積できる。一方Gate-16欠損細胞においては、GBPが凝集体を形成し不均一に「偏在」しているため病原体含有小胞とGBPが効率的に出遭えず、その結果、病原体の増殖が起きてしまっている。


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